眠れなかった大晦日:ソウル(魂)の来し方


藤圭子がそんな美人か、という疑問をお持ちの方も多いかと存じ上げる。
この写真を見ても、お前のいうほどの美人かと。


こればっかりは主観だからなぁ。とにかく異様な美しさと、「異様な」という形容詞が前につく(カッコ)付の、極めつけの美しさ・・・
なんだけど、もういいや。


さて、類のない歌手(ぼくにとってだが)はもう一人いる。類のない歌手というのは数えていけばいくらでもいるだろうけど、ここでの基準は「ソウル(魂)」がぶりぶり、ガッツガツと揺さぶられて、どうしようもなく気になる人のことだ。歌がへたくそとか、誰に歌っているのか皆目分からないような歌い手は、そりゃある意味類がないが問題ではない。
ところが、なかには強烈というか奇天烈すぎて、気の弱い小学生にトラウマを作った歌手がいた。

これはすでに伝説になってるもんで、あちこちで個人体験が語られている。
最近たしかNHKBSでちあきなおみの特集(再放送のはず)で放送された。


ぼくは中学生だったのだが、家族で見ていてだれもがことばを失ったのをよく覚えている。
家族の意識としては見ちゃいけないものを見た、ので、したがってなかったことにしよう。という空気が作られたのだが、はっきりいって怖いもの見たさで変な具合に興奮してしまったのはぼくだけじゃなく、全国の中学生男子にはゼッタイ多かったはずだ。
その興奮のツケはやがて除夜の鐘とともに襲ってきた。
この世のものじゃないんじゃないか?というのを、ホントにテレビで見てしまった!から、恐ろしくて寝れないのである。しかも見たのは大晦日という、なんか魔力の強そうな特別な日ということもあって、いらぬ妄想が増幅されてしまったのだ。中学生の妄想はリミッターをはずれてしまった。
中学生でこの経験があるから、貞子はさほど驚かないですんだともいえる。
見たときはおいおい、こんなのもありかよ!と驚きながらも、怖ぇ〜けど、ありなんか〜。であったのだが。
しかし、これを見た小学生はのんきにテレビを見ていると、怖い目にあうというトラウマを相当数持ったといわれる。


■昭和52年の紅白歌合戦で歌った「夜を急ぐ人」ちあきなおみ


今見ると感慨ひとしおだね。うん。
あらためていうまでもなく歌うまいし。だが、なぜこの歌を歌ったのか?という疑問はあいかわらずだ。
歌う理由、選曲の必然はあったはずだけどね。
なんとなく、歌詞とその振り(パフォーマンスか)に解答が秘められてるようなかんじかな。

何れにせよ、異世界を現出させた歌を聴いたのは後にも先にもこの歌だけだ。
今思い出したけど、そう大昔から存在するシャーマン(巫女)の呪力。こちらの現実感をばらばらにする呪術を食らったような感じ。


ちまちまと拙い記憶や知識、経験で現実と折り合いをつけようとしている一般凡人は、現実に忠実な理性と時空という秩序があってなんとか正常でいられる。なのに、あのときのちあきなおみは、あっという間もなく、軽々と時空を超え、理性と秩序を無にするような原初的なパワーを見せた。
どこから来るのだその魂!ってことか。
まだまだそうとう奥が深いや。魂の来し方ってやつは。